運が〈いい〉〈悪い〉 <育心タイムズ122号>

喜多川泰さんの新刊「運転者」を読みました。たくさんの学びがありました。皆さんにも少しお裾(すそ)分(わ)けします。

主人公の岡田修一は不思議なタクシーに乗り、その運転手と会話します。

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「あなたは運がいい方ですか? それとも・・・・・・」
「運がいい人生なんて俺(おれ)の人生とは無(む)縁(えん)だね。ついていないことばっかりだ」
「そうですか。そんな人の運を変えるのが僕の仕事です」
「どんな仕事だよ、それ」
「だから、最初から言っているじゃないですか。私はあなたの運転手だって」

(中略)

「本当は〈運〉にいいも悪いもないんですよ」
「なんだって?」
「だから、運がいい人なんていないし、運が悪い人なんていない。運はそういうものじゃないんですよ」
「そんなことはないだろう。現に俺にはついてないことばかり起こるし、運がいい奴(やつ)はついてることばかり起こるじゃないか」
「ハハハ」

運転手は乾(かわ)いた笑い声を上げた。

「まさか本気でそう思ってるんじゃないですよね」

修一は運転手の態度が少し頭に来て、眉(み)間(けん)にしわを寄せた。
「岡田さんが言う、ついてることばかりが起こる奴って、何もしないでいいことばかりが起こってるって思ってるんですか」
「な……」
修一は思わず固まってしまった。
「いや、そうは思わないが、同じように頑張ってるのにいいことばかりが起こる奴と、そうじゃない奴がいるだろって話をしているんだよ」
「じゃあ、岡田さんは、いいことばかりが起こる奴と同じくらい頑張ってるのに、自分にはいいことが起こらないと?」
「俺の話じゃなくて一般的にそういうことってあるだろって話をしてるんだよ」
「ないですね」
運転手は断言した。

「いいですか、岡田さん。運は後(あと)払(ばら)いです。何もしてないのにいいことが起こったりしないんです。ポイント貯(た)めてないのに何かもらえますか? 誰(だれ)もそんなこと、期待しないでしょ。でも、運となると、貯めてない人ほど期待するんですよね」

修一は、自分の手元にあるポイントカードを見つめた。
「そのポイントカードは五百円の商品券として使えるんです。どうしてかわかりますか?ポイントが貯まってるからです。ポイントカードをもらった瞬(しゆん)間(かん)に五百円として使わせてもらって、あとからポイントを貯めるってことがありますか? そんな使い方できるポイントカードなんてないですよ。運だって同じなんです。でも、多くの人は『運がいい』と言うとき、その前のことをまったく無視して、突然いいことが起こることのように期待してるでしょ」

「運はこのポイントカードといっしょだって言うのか?」
「そうですよ。運は〈いい〉か〈悪い〉で表現するものじゃないんですよ。〈使う〉〈貯める〉で表現するものなんです。だから先に〈貯める〉があって、ある程度貯まったら〈使う〉ができる。少し貯めてはすぐ使う人もいれば、大きく貯めてから大きく使う人もいる。そのあたりは人によって違いますけどね。どちらにしても周囲から〈運がいい〉と思われている人は、貯まったから使っただけです」

修一はポイントカードを見つめながら、運転手の言葉を反(はん)芻(すう)していた。
「運はいい悪いじゃなく、使う、貯める……」
「貯めてないのに、使えないぞって文句言われてもお店は困っちゃうでしょ。運もそうなんですけど、貯めてもいないのに『使えないぞ』『あいつばかりずるいぞ』って言う人、多いんですよね」
「じゃあ、ついてる奴は、そうじゃない奴と同じように頑張っているように見えて、実は運を貯めてたってことか?」
「そうですよ。貯まった運を使うとき、周りから『ついてる』って見えてるだけです」

修一は険しい表情で腕を組んだ。運転手が言っていることに「なるほど」と納(なつ)得(とく)している自分と「そんなこと認めてたまるか」と反発している自分が心の中で葛(かつ)藤(とう)していた。

(中略)

「岡田さん、種から野菜を育てたことがありますか?」
「え? 野菜? ないけど……」
「たとえばニンジンなら、春のまだ暖かくなる少し前に種を植えます。そこから育ててニンジンとして収(しゆう)穫(かく)できるのはいつ頃かご存じですか?」
「さあ、五ヵ月くらい先?」
「わかってるじゃないですか。僕はてっきり『その日』とか言うんじゃないかと思っていましたよ」
「そこまでバカじゃないだろ」
「ええ。もちろん冗談です。でも、僕たちは仕事の成果とか努力の成果ということになると、その『バカなこと』を期待していると思いませんか?」
「今、頑張っているんだから、今すぐ結果が出てほしいと思っているということか」

「はい。でも、なかなか結果が出ないと言って苦しんでいるんです。人によっては自分は運が悪いとか思い始めます。頑張ってるのに報われないって言う人はみんな、種を蒔(ま)いてそれを育てているんですが、ちゃんとした収穫時期の前に『まだ育たない』と言って嘆(なげ)いているようなもんです。もっと長い目で見たら、報(むく)われない努力なんてないんですよ。あまりにも短い期間の努力で結果が出ることを期待しすぎているだけです。今日頑張って明日実になるなんてどんなに早く育つ種でも無理なことですよ」

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塾での勉強も、ここでのお話とよく似ているところがあります。がんばってもがんばっても成果が出ないことも実際あります。勉強のやり方が悪い場合は、ご両親や私に聞いて、新しい取り組みを進めていく必要があります。

しかしちゃんとしたやり方をしていても、なかなか成果が出ない場合もあるのです。でも、そこであきらめるのでなく、ああ~今はポイントをためている時期なんだ、と自分に言い聞かせ、地道な努力を続けていきましょう。必ずやそれはあなたの人生においてよい結果をもたらせてくれるのですから。そう信じることも大切です。

何のために?<育心タイムズ119号>

先日、地震で倒れた書架に詰め込んでいただけの本を整理しました。懐かしい本がたくさん出てきました。その中に、中村文昭さんの本があり、読みふけっていました。中村さんは

・人に頼まれたら0.2秒でハイと言え
・頼まれごとは試されごと
・できない理由を言うな
・今できることをやれ

という四つの心の柱を持っています。そしていつも「何のために」を考えている人です。

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美容師になりたいと思っている女の子がいたとします。
そのときいちばん大切なのは、「何のために?」という夢の根っこにある問いかけです。

美容師になりたいと言えば、親が美容学校の学費を出してくれるでしょう。学校である以上、高校の延長のようなものですから、行けば友だちもいるし、多くの人は、ここは難なくクリアできます。

大変なことだらけなのは、卒業して国家資格を取ることではなく、実際サロンに勤め出してから。美容師というのはしんどい仕事で、立ち仕事で足はむくむく肩は凝る、シャンプーばかりさせられて腰は痛むわ、あかぎれだらけで手はボロボロになるわ、きれいにマニキュアしていた自慢の指は、皮膚がバクッと割れて血まみれになるかもしれません。

「何のために?」がなく、フーっと憧れだけできた子は、ここで夢からすべり落ちてしまいます。ドロップアウトで試合終了です。

ここをなんとか、ふんばった子に、次に訪れる試練は、「人と比べること」。
「今度の週末、合コンするんだけど都合どう?」などというメールが高校時代の友だちから来ると、とたんに「私ばっかりスパイラル」にはまり込みます。いいなあ、みんなは。おしゃれして、爪伸ばして、合コンして。私なんか手は悲惨だし、土日なんか絶対、休めない。それどころか閉店してから掃除して、夜十一時までカットの練習だ……。

こう考えていくと「私ばっかりしんどい思いをして、バカみたい」となります。人間の悩みの大半は他人との比較ですから、人を意識している限り、悩みというのは解決しません。
「私って、友だちと比べたら不幸のどん底。私ばっかり苦労してる」と思い始めた女の子は、数か月もたたずに、サロンを辞めてしまうでしょう。美容学校に行った二年間も無駄になります。こんな話は、そこらじゅうに転がっています。

美容師に限らず、単なる憧れだけでスタートを切ると、どんな夢でも永久にタマゴのままになってしまうのです。悪くするとグシャリと割れてしまうかもしれません。

しかし、「何のために」が根っこにある子は、まるで違う道を行きます。「美容師になるのは、自分のセンスでお客さんをきれいにして、幸せな気持ちになってもらうため」こんなふうに心のスイッチがONになっている子は、シャンプーをしすぎてあかぎれらけのボロボロになった手を、「美容師の勲章」だと思っています。

店長も先輩の美容師さんも、みんなこの道を通って、しんどい時期を経験しているから、かっこいい今がある。そう思えば、合コンのメールが来ても「どうぞどうぞ。みんなは好きに遊んでて。私はその間、一人前になるよう頑張って、どんどん夢に近づいているから」と腹をくくっています。やせ我慢でもなんでもなくそう思える素直さがあれば、どんな教えもスコスコ吸収できてしまいます。

そのうえで、「何を言われても返事は0.2秒」と決めると、次のドアが開きます。たいていの人は何か用事を言いつけられると、まず損得を考えます。「この仕事はラクか大変か? 自分の将来にプラスになるかどうか?」などと思い巡らすと、0.2秒で「はい!」とは言えないはずです。

損得で動く人がほとんどのなか、いかなるときも0.2秒の返事をしていれば、「なんて素直な子だろう」と店長は思います。「君は返事がいいね」と言ってくれるかもしれません。そのときのために、用意しておく返事があります。
「私はあなたに対して、ノーはありません」

何もできない自分は、あなたから知識を授かり、学び、技術を教えていただく。それでようやく成長していける。そんな相手に「ノー」という返事など存在しない……。この姿勢で真摯に店長に向かっていけば、「なんとしてでもこの子を育ててやろう。あらゆる経験をさせ、一人前にしてやろう」と応援してくれるでしょう。

若いうちは独学で成長することは不可能ですから、先輩や大人から手を差し伸べてもらわねばなりません。差し伸べてくれる手の握力が、ガチッと力強いものなら、美容師人生は二倍速の早回し。成長の速度はぐんとアップします。

覚えておいてほしいことは、まだあります。「頼まれごとは試されごと」というおまじないです。0.2秒で返事をした瞬間、反射的にこれを唱えることをクセにします。

「フロアの掃除をしておいて」と店長に頼まれた0.2秒後には「はいー」と返事をし、「頼まれごとは試されごと」とおまじないをつぶやくのです。「今、私を試していますね。頼まれごとは試されごと。見ていてください。あなたが思ってもいなかった速さで、あなたが思っている以上にピカピカに、このフロアを磨き上げてみせます!私の仕事は、あなたの予測を上回ることです」

どんな雑用だろうと使い走りだろうと、すべてこの心意気で、一生懸命やるのです。何も考えずにただモップを握る人より、ずっときれいに掃除ができるでしょう。この気持ちは必ず相手に伝わります。店長はできる・できないにかかわらず、あれこれ頼んでみたい、こいつにやらせてやろうと思うでしょう。すると多くの経験ができ、さらに先輩たちにも応援してもらえますから、成長は三倍速になるのです。
(中村文昭著『人生の「師匠」をつくれ!』から引用)

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将来の仕事の話になりましたが、皆さんは何のために勉強しているんだろうか?と言い換えていいでしょう。どうですか?

方程式を解くために勉強しているのですか? それとも英語を話すために勉強しているのですか? 1600年何があったか即答するために勉強しているのですか?

そんなの全然関係ないのです。でもね、それを全力でやる、中村さんの言葉を借りるなら「頼まれごとは試されごと」と思ってやることによって、いろいろな底力が自分の中についてくるのです。それは皆さんが将来、「人のお役に立ちたい。人に喜んでもらいたい」と思って仕事をするときに、大きな底力になってくるのです。勉強の本当の意味はそんなところにあるのだと私は思っています。

自分の限界をちょっとだけ超える<育心タイムズ117号>

117号(2018年5月14日発行)

イチロー選手が、マリナーズと生涯契約を結びましたね。そして「野球の研究者として生きていきたい」と言っていました。イチローらしい選択じゃないかな~と思います。いつまでも彼の言動は見逃せません。カッコイイし勉強になります。

2016年、イチローは大リーグ通算3000本安打の偉業を達成しました。その年の年末に日本であった少年野球大会の閉会式で、子ども達にあいさつをした彼が言った言葉を紹介します。

「こういうことがあると、たくさんの人から褒めてもらえます。そして、イチローは人の2倍も3倍も頑張っているという人が結構います。でも、そんなことは全くありません」
と首を振りながら話しました。
「人の2倍、3倍、頑張ることってできないよね?みんなも頑張っているから分かると思うけど、頑張るとしたら自分の限界って、わかるよね。その時に自分の中でもう少しだけ頑張ってみる、ということを重ねていってほしい」

この自分の限界をちょっとだけ超えて努力するってことが成長の秘訣なんだと私も思います。

中学生にはいつも定期テストがあります。そこで「自分の限界をちょっとだけ超える」を実戦してみませんか?

ちょっとだけ頑張るっていう意味じゃないですよ。みんな毎回のように、ちょっとだけ頑張ったって思っていますよね。でも成果がもう一つってことが多い。

それは、「自分の限界」って意味が分かっていないからでしょうね。何でもそうですが、「自分の限界」までやったときは、相当しんどいのです。

腕立て伏せや腹筋・背筋をやったことがある人は、分かるでしょう。「自分の限界」の回数に来たときのあのしんどさです。そのしんどさの中で、あと1回だけやってみよう!と回数を重ねることが、「自分の限界をちょっとだけ超える」ってことなんです。相当にしんどいのです。それを毎日の勉強の中で実戦するのですから、結構大変なんです。

・字をきれいに書く
・計算を途中式を飛ばさず、丁寧に丁寧にやる
・be動詞の文章か一般動詞の文章か確認してから問題をやる
・主語の単数複数、現在の文・過去の文・進行形などをしっかり確認する

いろいろな項目について、自分の限界をちょっとだけ超える。その時に成果は生まれてくるのです。頑張っていきましょう。

これって不幸でしょうか?

112号(2017年5月18日発行)

名言セラピストとして著名な ひすいこたろう さんの講演を聴きました。その中で、彼は私たちにこう問いかけるのです。

「毎日毎日、勉強ばっかりやらされる子どもは不幸でしょうか?」
「毎日毎日、やりたくない仕事をやらされるサラリーマンは不幸でしょうか?」

私は当然「そりゃ不幸やわ~」と思いました。

これは、2つとも自分のことなんです。そう ひすいこたろう さんは話し始めました。

小さい頃、父親がとても厳しくて、とにかく勉強させられたそうです。日曜日は8時間は勉強しないといけなかった。そして、友達ともあんまり遊ぶことができなかったので、人と話すのが苦手な内向的な子どもとして育っていきます。大学生になってもそれは同じでしたから、面接試験が主流の就職活動なんてできるはずはありません。ある日、親しい友達が、この会社だったら、絶対採用してくれるよっていうので、その会社に受けに行くと、社長さんと会ったとたんに、「君ココで働くか?」と聞かれて「はい。」 これで就職が決まったのですが、実は会社のことなんか何にも調べていないし、どんな仕事をするのかも聞いていないのです。

その会社が彼に与えた仕事は「営業」。その会社の商品を売るために、他のいろいろな会社に行って宣伝をして商品を買ってもらう仕事です。ひすいさんの一番苦手な人と対面しなければいけない仕事です。毎日毎日やりたくない仕事をやらされることになるのです。営業成績も当然ビリ。

ここまで聞いて、私は「やっぱり不幸じゃん」って思っていました。

あるとき、営業先が雑誌でいろいろな商品を通信販売をする通販の会社だったので、どんな商品が売れているのか聞いたそうです。そうすると、雑誌のページによって、1ページで何百万円も売り上げるページもあれば、まったく売れないページもあることを教えてくれたそうです。どうも商品そのものより、言葉や文章に引きつけられているらしいのです。

ひすいさんは考えます。人と話をするのは苦手だけれど、文章を書くのは嫌じゃない。ならば、自分の会社の商品をアピールする文書を作って、それを毎日ファックスで送ろう。そうだ、そこに、人の心がほんわか温かくなるような話も付け加えておこう。そして訪問販売に行くときには、必ずその文書を持って、それを見てもらおう!

これをやり出してから、彼の営業成績はぐんぐん上がっていくのです。なぜならそのファックスに魅力があったからでしょう。

では、ひすいさんはなぜ文章を書くのが嫌じゃなかったのでしょうか? なぜそのファックにいろんな魅力のある話を付け加えることができたのでしょうか? それは、小さい頃厳しい父親によって毎日毎日、勉強させられたおかげで、文章を書くのが得意になっていたからです。そして、本を読むのも好きになっていたのです。だから、今まで読んできた本にはたくさん魅力のある話を見つけて線を引いてありました。

そうなんす。これは「毎日毎日、勉強ばっかりやらされてきた」おかげなのです。

ドイツの詩人ゲーテが一人の女性、シャルロッテに宛てたラブレターが残っています。その数なんと1800通。ビックリしますよね~ ゲーテがあれだけの世界的文豪と言われるようになったのは、この1800通ものラブレターのおかげじゃないかと考えたひすいさんは、このファックスによる営業を1801日続けよう!ゲーテを超えてやるぞ~! 結局書いたファックスは2000枚を越えました。 ひすいさんは言います。

「ゲーテが1800通のラブレターで世界的な文豪になったように、私は2000枚のファックスによって、今皆さんの前でお話ができる作家になれたんです。」

そうなんです。これは「毎日毎日、やりたくない仕事をやらされた」おかげなのです。

人生で起こることは、
すべて最高なのだ!

そんな講演でした。ひすいこたろうさんは

「毎日毎日、勉強ばっかりやらされた私は不幸でしょうか?」
「毎日毎日、やりたくない仕事をやらされた私は不幸でしょうか?」

不幸なんかじゃない。とっても幸せだったんだと言いたかったのですね。

人生は山あり谷ありとよく言いますが、私は谷の方が多いんじゃないかと思うときがあります。頑張っても頑張っても、なかなか思うようにならないものです。でも、自分の人生をふり返ると、谷ばかりではありません。山もちゃんとあります。そして、谷底で学んだことが次の山道を乗り越えさせてくれたこともあります。谷底で悲しい思いをしたからこそ、山頂に登ったときの喜びも一入(ひとしお)だったこともあります。

私の座右の銘(自分の心に留めおいて、戒(いまし)めや励ましとする言葉)は、船井幸雄さんの

必然必要ベストなことがら   です。

自分の目の前に起こることは、

今の自分に起こるべくして起こる(必然な)ことがら
今の自分に必要なことがら
今の自分にベストなことがら

という意味です。だから、目の前に楽しいことが起こっていれば素直に喜べばいい。そして、目の前に起こっていることが、どんなに辛いことであっても、それは私の人生において、必ず意味のあることだと考えて乗り越えていくことにしています。

皆さんも、今がしんどくても、それはきっと将来、自分の成功に役に立つのだと思って、頑張っていってくださいね。

心の天秤

111号(2017年3月6日発行)

(喜多川泰「秘密結社Ladybirdとぼくの6日間」から)

颯汰(そうた)は高校3年生、大学を受験するつもりで、夏休みは塾の夏期講習に参加した。でも実際のところ塾にも行かず、家でぐうたらしているばかり。その日も1分たりとも勉強はしていない。これではいけないと思いながら、また今日も終わっていく。

そんな夏休み、あることがきっかけでとんでもない1週間を過ごすことになります。そして颯汰はいろいろな出会いから、人生を学びます。颯汰が出会ったある中3生の卒業文集の作文をまず紹介します。

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「ふさわしい人」  三年五組 二階堂肇

僕は、正月になると神社で毎年お願いしていることがある。それは、「僕は努力をする。だから、それにふさわしいものを与えてください」という言葉だ。

それ以上でも嫌だ。それ以下でも嫌だ。

自分の努力にふさわしいものが、自分の将来に手に入るそんな生き方をしたい。そして、それが与えられることを信じている。だから、僕はどこまでも、どこまでも頑張る人でいたい。

僕は、自分のやってきたことにふさわしい人になりたい。

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普通、受験生は、自分の努力は棚に上げて結果を求めます。何かの間違いでもいいから受からないかなとか、奇跡が起こって合格できないかなと考えるものです。自分のやってきた努力に見合った結果を与えてくださいなんて念じる人はいません。そんなことしたら不合格になるのは自分自身が一番よく分かっています。

でも、二階堂肇は本気でそれを願っていました。自分がした努力以下の結果しか手に入らないのを嫌うのと同じように、努力以上の結果が手に入るのを嫌っていたのです。長い目で見て、それは自分の将来にマイナスでしかないと彼は分かっていました。

「心の中にいつも天秤を用意しておいて、片方の皿に、志望校合格とか、自分の手に入れたいものを置く。そうして、反対側の皿の上に、努力を積み重ねていく。そうすると、そのふたつが釣り合うときがやってくる。そのとき初めて自分の手に入れたいものが手に入る。」

ほとんどの中高生が、この天秤を用意していないから別のことを期待してしまいます。つまり、片方の皿に置いた手に入れたいものよりも、ずっと小さい努力しか反対の皿に乗せていないのに、これで何とか、手に入らないかなぁって期待してしまうのです。あなたもそんな生き方をしていませんか?

そんな学びを得た颯汰は、中学生の時いつも県の水泳大会で負けていた風太と出会い久しぶりにレースをします。万年2位の颯汰は、高校では水泳部には入っていなかったのです。

風太「全然体力がないのに、よく勝負しろって言うよ。でも、最初の25mは速かったな。正直焦った」

颯汰「まあ、お前に対する礼儀だ。俺、中学のときレースで本気出したことなかったから。まあ、本気出したら勝てたって意味じゃないぜ。そうじゃなく、本気を出しても負けたんだけど、それでも、本気を出さなかったのはお前に対して失礼だったと思ってな。だから、今日のは本気だった……本気でやって、負けた。それを言いたかった」

風太「そうだな。お前いつも本気じゃなかったような気がするよ。だから、俺はレースでお前を見ると、いつも恐かった」

颯汰「恐い?」

風太「ああ。お前はどう見てもセンスの塊みたいな奴だ。俺とは違う。俺は努力で少しずつ成長してあそこまで行った。俺はお前の泳ぎを見ていつも羨ましいと思っていたんだ。俺にあんなセンスがあったら、県だけじゃない。全国でだって勝てるんじゃないかって。だから、レースで会うたびに、お前が本気で練習を積んできてたらどうしよう。今度こそは、『打倒俺』に燃えてきたんじゃないかって、思ってスタート台に立ってたのさ」

颯汰「いらぬ心配だな。そんな根性なかったよ。つらいことから逃げるの専門だもん俺」

風太「それが言える奴は強いよ。みんなそれをごまかして生きてるからな」

颯汰「初めて言った。今までごまかして生きてきたからな。でも、もうやめるわ。逃げるの。だって、かっこわるいもん。負けてもいいから本気でやろうと思う」

目の前のことに、全力で取り組むこと、それ以外に自分の人生を切り拓く方法はないように思いました。でも、そんな生き方は、大人でも難しいものです。逃げることもあるでしょう。

でも、いつもいつも逃げるのではなく、全力でぶちあたる、そういう日々が自分を成長させることを、皆さんにも知ってほしいと私は強く思っています。保護者の皆さんや中学生にはぜひ読んでほしい一冊でした。

「わかる」と「できる」

106号(2016年2月23日発行)

先生

今日は、私の授業に対する考え方の変化をお話しします。

私は「物事をいかに分かりやすく教えるか」ということをずっと追いかけてきました。大学時代に浜学園という塾でアルバイトを始めた時から、ずっとです。その塾では講師は3軍に別れていました。プロ野球と同じです。1軍の講師は授業を担当します。2軍の講師は準講師と呼ばれ、テスト監督を担当します。毎回の授業の後に行われる復習テストの監督をして、最後に少しだけテスト問題の解説授業をします。この解説授業をしながら、授業力を高めて、1軍の講師をめざします。3軍は準講師をめざして研修中の予備軍です。

授業がうまくならないと、決して授業は担当できないしくみがそこにはありました。ですから、徹底的に上手な授業ができるよう自分を磨きました。教科の内容を理解する力はもちろんですが、生徒を納得させるだけの話術や、何が重要かを際立たせるための板書能力など、「分かりやすい授業」を身につけるためのあらゆる努力をしてきました。平成7年に浜学園を退職して、育心を立ち上げてからも、その気持ちは変わりません。ずっとずっと、「分かりやすい授業」を追求してきたのです。

ところが最近「分かりやすい授業」だけではダメだという衝撃的な事実に気がついたのです。

昨年の6月から数学の授業を育心LIVEに変えてきました。もちろん育心ライブに収録しているものは私自身の徹底した「分かりやすい授業」です。こだわりを持って授業し、撮影しています。ホーム―ページやFacebookで公開している動画を見て、塾仲間の先生が「大谷先生の授業は分かりやすくて学ぶことが多いです」とよく言ってくれます。私は、これを生徒が自分のペースに合わせて見てくれれば、絶対実力がつくと思っていました。確かに子ども達の数学の実力が確実に上がってきているのを私は実感しています。ところがです。その実力が上がっているのは、どうやら私の「分かりやすい授業」だけが原因ではないようなのです。

育心LIVEでは、5分から最長でも10分程度の私の解説授業を見た後、自分で演習問題を解くシステムになっています。この演習問題がすんなり解けない時があります。子ども達が「あれっ」と思う瞬間です。私の授業動画を見たときは「なるほど」と思っているのですが、いざ自分でやってみるとできないのです。この「わかる」と「できる」の違いを子ども達がしっかり理解して、「できる」状態を作り上げないと残念ながら実力はつかないのです。

演習問題をやっている姿は子どもによってさまざまです。手が出なくなってうんうんうなっている子もいます。答えを見て適当に直している子もいます。この子達はまだまだ勉強の仕方が分かっていないので、その都度注意していきます。

自分で解けないなあ~と思った時、動画で見た例題のノートを見直している子もいれば、動画を再度見にいく子もいます。答えを見て間違っていたら、なぜ間違ったのか徹底的に分析している子もいますし、どうしても分からない時に、「先生この解説のここが分かりません」と言ってくる子もいます。この子達は確実に伸びていきます。

実は子ども達は、私の授業を聞いて力をつけているのではなく、この演習問題を解く瞬間に力をつけているのです。この演習時間での勉強の仕方やその問題点は子ども達一人ひとり異なります。またその問題点を家で自分で解決できる子はほとんどいません。そこをサポートするのが私の大きな役割になっています。今までの集合授業と家庭学習の組み合わせだけでは、乗り越えられなかった部分が、今の育心LIVEを使った授業、特に演習問題を解いている時に解決できるようになったのです。

「分かりやすい授業」が悪いわけではもちろんないのですが、「分かりやすい授業」だけではダメなのです。演習を組み合わせて子ども達自身が「できる」ようにならなければ意味がなかったのです。

新しい育心が出発しました。

ひびのおしえ2

第103号(2015年6月22日発行)

ひびのおしえ

前回に引き続き福沢諭吉が明治4年に息子の一太郎(8歳)と捨次郎(6歳)のために書いた「ひびのおしえ」から紹介します。第二編の冒頭です。

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おさだめ(六つの大切なこと)

だい一
天(てん)道(とう)さまを恐れ、これを敬(うやま)い、その心にしたがいなさい。ただしここでいう天道さまとは、太陽のことではありません。西洋のことばでは「ゴッド」といい、日本のことばにほんやくすれば、創(そう)造(ぞう)主(しゆ)(神)というものです。

だい二
父母を敬い、親しみ、その心にしたがいなさい。

だい三
人を殺してはいけません。獣(けもの)をむごくあつかったり、虫などをよく考えもしないで殺したりしてはいけません。

だい四
盗みをしてはいけません。人の落としたものを拾って、自分のものとしてはいけません。

だい五
本当でないことを言ってはいけません。人をだましたりして人の邪(じや)魔(ま)をしてはいけません。

だい六
貧(どん)欲(よく)であってはなりません。やたらに欲張って人のものを欲しがってはいけません。

 

天道さまのおきて

天道さまのおきてには、昔、昔、その昔より、今日の今にいたるまで、少しも間違いはありません。麦をまけば麦が生え、豆をまけば豆が生え、木の船は浮き土の船は沈む。きまりきっていることなので、人はこれを不思議とは思いません。ですから、今、良いことをすれば良い結果となり、悪いことをすれば悪い結果となる、これも、また天道さまのおきてです。昔の世から、今まで違ったということはありません。それなのに、天道知らずのばか者で、目の前の欲に迷って、天のおきてを恐れず、悪事をはたらいて、幸福をもとめようとする者がいます。これは、土の船に乗って、海を渡ろうとすることと同じです。こんなことで、天道さまがだまされるとでも思うのだろうか。悪事をはたらけば悪事が戻ってくるぞ。壁に耳あり、ふすまに目あり、悪事をして罪をのがれようとしてはいけません。

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私はよく母親から「お天道様が見ているよ」と言われて育てられました。昔から日本には太陽を神のようにあがめ、すべてはお天道様が見ているという信仰があります。皆さんが現在どんなに辛い状況にあろうとも、皆さんの努力やよい行いは、どんなに小さなことでも、お天道様が見てくれています。そして、必ずその努力やよい行いに、将来、報いてくれるものです。

イチロー選手の強さの秘密

第101号(2015年3月10日発行)

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1月29日、イチロー選手のマーリンズ入団会見は皆さんニュースで見られたことでしょう。記者が「ファンの皆さんに、メッセージをお願いします」と言ったときのイチロー選手の言葉は圧巻でしたね。

「新しい場所に行って、新しいユニホームを着てプレーすることに決まりましたが、

『これからも応援よろしくお願いします』

とは僕は絶対に言いません。

応援していただけるような選手であるために、自分がやらなければならないことを続けていく、

ということをお約束して、それをメッセージとさせていただいてもよろしいでしょうか。」

41歳の年齢で大リーグという本当に厳しい世界で活躍するのは並大抵のことではないはずです。では特別なことをやっているのかというとそうではありません。イチロー選手は、自分がやるべきことを毎日毎日確実に積み重ねていくのです。それしか自分を成功に導いてくれるものはないんだという強い信念を感じました。まさに彼の生き方でしょう。

皆さんは、自分の可能性を信じていますか?いろんな夢を垣間見ることはあっても、それを真剣に追い求める人が少なくなりました。すぐに「俺は無理、才能ないわ~」ってあきらめてしまいます。もったいないな~と思います。

イチロー選手の身長知っていますか?
180㎝です。日本人としては大きい方かもしれません。でも大リーガーの平均身長は196㎝です。大リーガーの中では小柄のイチロー選手です。身体に恵まれている訳ではないのです。それでも40歳を越えてあれだけの活躍ができる。それは才能だけで物事の成否が決まっているわけではないということを証明していると言ってもいいでしょう。

毎日のトレーニング・体調を維持するための食事・規則正しい生活、そういう基本的なことの積み重ねが、今のイチロー選手を作っているのです。

皆さんの未来についても同じことが言えます。自分を高めていくためには毎日毎日の努力の積み重ねしかありません。イチロー選手は小6の修学旅行の夜も、スナップボールで手首のトレーニングをしていたのです。「毎日やってるんだ。これ終わったら、遊ぼ」って言いながら。まさに今の皆さんの毎日が、必ず未来につながります。一日一日を大切に生きていきましょう。

最後に、私の大好きなイチロー語録を紹介します。

「ちいさいことをかさねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道」

 

 

天は人の上に人を造らず

第100号(2015年1月28日発行)

 「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。」

小学生でもよく知っている、福沢諭吉の「学問のすすめ」の冒頭です。簡単に言えばみんな平等だと言っています。しかし福沢諭吉は、こう続けます。

けれどもこの人間世界を見渡すと、かしこい人がいて、おろかな人もいる。貧しい人もいれば、豊かな人もいる。その有様は雲と泥との違いがあるようだが、これはなぜなんだろうか?

それはとても明らかなことである。実語教に「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」と書いてあるというのです。

実語教とは江戸時代に寺子屋で教科書として使われていた書物です。人が生きていく上で、欠かせない大切な知恵が詰まっています。少し読んでみましょう。

玉(たま)磨(みが)かざれば光(ひかり)無(な)し。光(ひかり)無(な)きを石(いし)瓦(がわら)とす。
人(ひと)学(まな)ばざれば智(ち)無(な)し。智(ち)無(な)きを愚(ぐ)人(にん)とす。

どんな宝石も磨かない原石のままでは光りません。光らない宝石は石や瓦と同じです。人も学ばなければ知恵は身につきません。知恵のない人を愚かな人というのです。しっかり学んでいきましょうね!

師(し)に会(あ)うといえども学(まな)ばざれば、徒(いたずら)に市(いち)人(びと)に向(む)かうが如(ごと)し。

せっかく良い先生と出会っても、学ぼうという気持ちがなければ、ただの人と会っているようなものです。それでは何も得られませんよ。出会った先生それぞれにいいものを持っているはずです。そのいいところをどんどん吸収していってくださいね。

習(なら)い読(よ)むといえども復(ふく)せざれば、只(ただ)隣(となり)の財(ざい)を計(かぞ)うるが如(ごと)し。

勉強するのも本を読むのも、一度だけではなくて繰り返しやらなければ、ただ隣の家の財産を数えるようなものです。それでは自分のものとはなりませんよ。授業の時、分かったと思っても、自分で解いてみないと、力はつきません。宿題はそのためにあるのです。

人(ひと)として智(ち)無(な)き者(もの)は、木(ぼく)石(せき)に異(こと)ならず。
人(ひと)として孝(こう)無(な)き者(もの)は、畜(ちく)生(しよう)に異(こと)ならず。

知恵を持っていない人は、木や石と変わりません。親孝行の気持ちを持っていない人は、動物と変わりません。皆さんはお父さんお母さんに感謝の気持ちを持っていますか?塾に通わせてもらっていることは、とてもありがたいことなんですよ。知っておいてくださいね。

江戸時代の寺子屋で、子ども達はこんな言葉を毎日、音読していたのです。そうやって学んでいたらからこそ、明治時代に外国からさまざまな学問が入ってきたとき、すぐに対応できたのです。やっぱりしっかり学ぶことが大切なんですね。   (齋藤孝「実語教」を参照)

目玉おやじ

第99号(2014年11月20日発行)

目玉おやじ

最近、教師歴32年の小学校教師が書いた本を読みました。そこにとてもいい話がありましたので、紹介します。

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自分の中にもう一人の自分がいること知ってる?
「自分」には、「する自分」と、それを「見ている自分」がいるんだ。

この「目玉おやじ」みたいな「見ている自分」は、自分のやることすべてを見ているんだ。
「おまえ、あのときずるいことしたよな」
「おまえ、あのとき全力じゃなかったよな、手を抜いたよな」
「おまえ、あのとき人につられて本心じゃないことをやったよな」って。
他人にはわからなくても、いつも厳しい、中立な目で見ている。誤魔化せない。

だれでもずるいことをしたことやさぼったことはあるだろう。それで、しめしめ、誰にも気づかれずにうまくいった!と思ったこともあったかもしれない。でも、それを知ってて、覚えている人、いるんだよ。それがもう一人の自分、「目玉おやじ」だ。だから、ほら、今だってそのずるいこと、自分では覚えているでしょ。

もちろん、「目玉おやじ」が覚えているのは悪いことばかりじやない。自分のがんばりも報われなかった努力も見ていてくれる。その「目玉おやじ」に「うん、オマエもなかなかよくやっている」と認められるということが大切なんだね。これを「自尊」の念という。

「目玉おやじ」に尊敬されれば、目玉おやじは大きな力を与えてくれる。でも、ずるいことだけをしてうまくやろうなんていうときは、大きな力でその邪魔をするんだ。「おまえなんか、成功する資格無し!!だって、あんなに卑怯だったじゃないか!」ってね。

「目玉おやじ」に尊敬してもらえるような生き方をしていこう。
人に気づいてもらえなくても、人からほめられなくても、「目玉おやじ」だけは知っていてくれて、大きな力を与えてくれる。
(平光雄著「子どもたちが身を乗り出して聞く 道徳の話」から転載)
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勉強でもスポーツでも、やっぱり一生懸命がいいですよね。

さぼると何となく、後ろめたい、嫌な想いが残ります。それは自分の中のもう一人の自分「目玉おやじ」が見ていたからなんですね。

あのときは辛かったけど、何とか頑張ってきたから、この結果があるよねって「目玉おやじ」と話せるよう、何事にも真剣に立ち向かっていきましょう。

その積み重ねによって、自分自身に自信が持てるようになるのです。