運が〈いい〉〈悪い〉 <育心タイムズ122号>

喜多川泰さんの新刊「運転者」を読みました。たくさんの学びがありました。皆さんにも少しお裾(すそ)分(わ)けします。

主人公の岡田修一は不思議なタクシーに乗り、その運転手と会話します。

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「あなたは運がいい方ですか? それとも・・・・・・」
「運がいい人生なんて俺(おれ)の人生とは無(む)縁(えん)だね。ついていないことばっかりだ」
「そうですか。そんな人の運を変えるのが僕の仕事です」
「どんな仕事だよ、それ」
「だから、最初から言っているじゃないですか。私はあなたの運転手だって」

(中略)

「本当は〈運〉にいいも悪いもないんですよ」
「なんだって?」
「だから、運がいい人なんていないし、運が悪い人なんていない。運はそういうものじゃないんですよ」
「そんなことはないだろう。現に俺にはついてないことばかり起こるし、運がいい奴(やつ)はついてることばかり起こるじゃないか」
「ハハハ」

運転手は乾(かわ)いた笑い声を上げた。

「まさか本気でそう思ってるんじゃないですよね」

修一は運転手の態度が少し頭に来て、眉(み)間(けん)にしわを寄せた。
「岡田さんが言う、ついてることばかりが起こる奴って、何もしないでいいことばかりが起こってるって思ってるんですか」
「な……」
修一は思わず固まってしまった。
「いや、そうは思わないが、同じように頑張ってるのにいいことばかりが起こる奴と、そうじゃない奴がいるだろって話をしているんだよ」
「じゃあ、岡田さんは、いいことばかりが起こる奴と同じくらい頑張ってるのに、自分にはいいことが起こらないと?」
「俺の話じゃなくて一般的にそういうことってあるだろって話をしてるんだよ」
「ないですね」
運転手は断言した。

「いいですか、岡田さん。運は後(あと)払(ばら)いです。何もしてないのにいいことが起こったりしないんです。ポイント貯(た)めてないのに何かもらえますか? 誰(だれ)もそんなこと、期待しないでしょ。でも、運となると、貯めてない人ほど期待するんですよね」

修一は、自分の手元にあるポイントカードを見つめた。
「そのポイントカードは五百円の商品券として使えるんです。どうしてかわかりますか?ポイントが貯まってるからです。ポイントカードをもらった瞬(しゆん)間(かん)に五百円として使わせてもらって、あとからポイントを貯めるってことがありますか? そんな使い方できるポイントカードなんてないですよ。運だって同じなんです。でも、多くの人は『運がいい』と言うとき、その前のことをまったく無視して、突然いいことが起こることのように期待してるでしょ」

「運はこのポイントカードといっしょだって言うのか?」
「そうですよ。運は〈いい〉か〈悪い〉で表現するものじゃないんですよ。〈使う〉〈貯める〉で表現するものなんです。だから先に〈貯める〉があって、ある程度貯まったら〈使う〉ができる。少し貯めてはすぐ使う人もいれば、大きく貯めてから大きく使う人もいる。そのあたりは人によって違いますけどね。どちらにしても周囲から〈運がいい〉と思われている人は、貯まったから使っただけです」

修一はポイントカードを見つめながら、運転手の言葉を反(はん)芻(すう)していた。
「運はいい悪いじゃなく、使う、貯める……」
「貯めてないのに、使えないぞって文句言われてもお店は困っちゃうでしょ。運もそうなんですけど、貯めてもいないのに『使えないぞ』『あいつばかりずるいぞ』って言う人、多いんですよね」
「じゃあ、ついてる奴は、そうじゃない奴と同じように頑張っているように見えて、実は運を貯めてたってことか?」
「そうですよ。貯まった運を使うとき、周りから『ついてる』って見えてるだけです」

修一は険しい表情で腕を組んだ。運転手が言っていることに「なるほど」と納(なつ)得(とく)している自分と「そんなこと認めてたまるか」と反発している自分が心の中で葛(かつ)藤(とう)していた。

(中略)

「岡田さん、種から野菜を育てたことがありますか?」
「え? 野菜? ないけど……」
「たとえばニンジンなら、春のまだ暖かくなる少し前に種を植えます。そこから育ててニンジンとして収(しゆう)穫(かく)できるのはいつ頃かご存じですか?」
「さあ、五ヵ月くらい先?」
「わかってるじゃないですか。僕はてっきり『その日』とか言うんじゃないかと思っていましたよ」
「そこまでバカじゃないだろ」
「ええ。もちろん冗談です。でも、僕たちは仕事の成果とか努力の成果ということになると、その『バカなこと』を期待していると思いませんか?」
「今、頑張っているんだから、今すぐ結果が出てほしいと思っているということか」

「はい。でも、なかなか結果が出ないと言って苦しんでいるんです。人によっては自分は運が悪いとか思い始めます。頑張ってるのに報われないって言う人はみんな、種を蒔(ま)いてそれを育てているんですが、ちゃんとした収穫時期の前に『まだ育たない』と言って嘆(なげ)いているようなもんです。もっと長い目で見たら、報(むく)われない努力なんてないんですよ。あまりにも短い期間の努力で結果が出ることを期待しすぎているだけです。今日頑張って明日実になるなんてどんなに早く育つ種でも無理なことですよ」

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塾での勉強も、ここでのお話とよく似ているところがあります。がんばってもがんばっても成果が出ないことも実際あります。勉強のやり方が悪い場合は、ご両親や私に聞いて、新しい取り組みを進めていく必要があります。

しかしちゃんとしたやり方をしていても、なかなか成果が出ない場合もあるのです。でも、そこであきらめるのでなく、ああ~今はポイントをためている時期なんだ、と自分に言い聞かせ、地道な努力を続けていきましょう。必ずやそれはあなたの人生においてよい結果をもたらせてくれるのですから。そう信じることも大切です。

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