何のために?<育心タイムズ119号>

先日、地震で倒れた書架に詰め込んでいただけの本を整理しました。懐かしい本がたくさん出てきました。その中に、中村文昭さんの本があり、読みふけっていました。中村さんは

・人に頼まれたら0.2秒でハイと言え
・頼まれごとは試されごと
・できない理由を言うな
・今できることをやれ

という四つの心の柱を持っています。そしていつも「何のために」を考えている人です。

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美容師になりたいと思っている女の子がいたとします。
そのときいちばん大切なのは、「何のために?」という夢の根っこにある問いかけです。

美容師になりたいと言えば、親が美容学校の学費を出してくれるでしょう。学校である以上、高校の延長のようなものですから、行けば友だちもいるし、多くの人は、ここは難なくクリアできます。

大変なことだらけなのは、卒業して国家資格を取ることではなく、実際サロンに勤め出してから。美容師というのはしんどい仕事で、立ち仕事で足はむくむく肩は凝る、シャンプーばかりさせられて腰は痛むわ、あかぎれだらけで手はボロボロになるわ、きれいにマニキュアしていた自慢の指は、皮膚がバクッと割れて血まみれになるかもしれません。

「何のために?」がなく、フーっと憧れだけできた子は、ここで夢からすべり落ちてしまいます。ドロップアウトで試合終了です。

ここをなんとか、ふんばった子に、次に訪れる試練は、「人と比べること」。
「今度の週末、合コンするんだけど都合どう?」などというメールが高校時代の友だちから来ると、とたんに「私ばっかりスパイラル」にはまり込みます。いいなあ、みんなは。おしゃれして、爪伸ばして、合コンして。私なんか手は悲惨だし、土日なんか絶対、休めない。それどころか閉店してから掃除して、夜十一時までカットの練習だ……。

こう考えていくと「私ばっかりしんどい思いをして、バカみたい」となります。人間の悩みの大半は他人との比較ですから、人を意識している限り、悩みというのは解決しません。
「私って、友だちと比べたら不幸のどん底。私ばっかり苦労してる」と思い始めた女の子は、数か月もたたずに、サロンを辞めてしまうでしょう。美容学校に行った二年間も無駄になります。こんな話は、そこらじゅうに転がっています。

美容師に限らず、単なる憧れだけでスタートを切ると、どんな夢でも永久にタマゴのままになってしまうのです。悪くするとグシャリと割れてしまうかもしれません。

しかし、「何のために」が根っこにある子は、まるで違う道を行きます。「美容師になるのは、自分のセンスでお客さんをきれいにして、幸せな気持ちになってもらうため」こんなふうに心のスイッチがONになっている子は、シャンプーをしすぎてあかぎれらけのボロボロになった手を、「美容師の勲章」だと思っています。

店長も先輩の美容師さんも、みんなこの道を通って、しんどい時期を経験しているから、かっこいい今がある。そう思えば、合コンのメールが来ても「どうぞどうぞ。みんなは好きに遊んでて。私はその間、一人前になるよう頑張って、どんどん夢に近づいているから」と腹をくくっています。やせ我慢でもなんでもなくそう思える素直さがあれば、どんな教えもスコスコ吸収できてしまいます。

そのうえで、「何を言われても返事は0.2秒」と決めると、次のドアが開きます。たいていの人は何か用事を言いつけられると、まず損得を考えます。「この仕事はラクか大変か? 自分の将来にプラスになるかどうか?」などと思い巡らすと、0.2秒で「はい!」とは言えないはずです。

損得で動く人がほとんどのなか、いかなるときも0.2秒の返事をしていれば、「なんて素直な子だろう」と店長は思います。「君は返事がいいね」と言ってくれるかもしれません。そのときのために、用意しておく返事があります。
「私はあなたに対して、ノーはありません」

何もできない自分は、あなたから知識を授かり、学び、技術を教えていただく。それでようやく成長していける。そんな相手に「ノー」という返事など存在しない……。この姿勢で真摯に店長に向かっていけば、「なんとしてでもこの子を育ててやろう。あらゆる経験をさせ、一人前にしてやろう」と応援してくれるでしょう。

若いうちは独学で成長することは不可能ですから、先輩や大人から手を差し伸べてもらわねばなりません。差し伸べてくれる手の握力が、ガチッと力強いものなら、美容師人生は二倍速の早回し。成長の速度はぐんとアップします。

覚えておいてほしいことは、まだあります。「頼まれごとは試されごと」というおまじないです。0.2秒で返事をした瞬間、反射的にこれを唱えることをクセにします。

「フロアの掃除をしておいて」と店長に頼まれた0.2秒後には「はいー」と返事をし、「頼まれごとは試されごと」とおまじないをつぶやくのです。「今、私を試していますね。頼まれごとは試されごと。見ていてください。あなたが思ってもいなかった速さで、あなたが思っている以上にピカピカに、このフロアを磨き上げてみせます!私の仕事は、あなたの予測を上回ることです」

どんな雑用だろうと使い走りだろうと、すべてこの心意気で、一生懸命やるのです。何も考えずにただモップを握る人より、ずっときれいに掃除ができるでしょう。この気持ちは必ず相手に伝わります。店長はできる・できないにかかわらず、あれこれ頼んでみたい、こいつにやらせてやろうと思うでしょう。すると多くの経験ができ、さらに先輩たちにも応援してもらえますから、成長は三倍速になるのです。
(中村文昭著『人生の「師匠」をつくれ!』から引用)

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将来の仕事の話になりましたが、皆さんは何のために勉強しているんだろうか?と言い換えていいでしょう。どうですか?

方程式を解くために勉強しているのですか? それとも英語を話すために勉強しているのですか? 1600年何があったか即答するために勉強しているのですか?

そんなの全然関係ないのです。でもね、それを全力でやる、中村さんの言葉を借りるなら「頼まれごとは試されごと」と思ってやることによって、いろいろな底力が自分の中についてくるのです。それは皆さんが将来、「人のお役に立ちたい。人に喜んでもらいたい」と思って仕事をするときに、大きな底力になってくるのです。勉強の本当の意味はそんなところにあるのだと私は思っています。

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